最高裁判所第一小法廷 昭和40年(オ)25号 判決 1968年7月11日
上告人
野津辰郎
代理人
錦織幸蔵
復代理人
錦織懐徳
被上告人
破産者 島根証券株式会社
破産管財人
難波督
主文
原判決を破棄する。
本件を広島高等裁判所に差し戻す。
理由
上告代理人錦織幸蔵の上告理由について。
問屋が委託の実行として売買をした場合に、右売買によりその相手方に対して権利を取得するものは、問屋であつて委託者ではない。しかし、その権利は委託者の計算において取得されたもので、これにつき実質的利益を有する者は委託者であり、かつ、問屋は、その性質上、自己の名においてではあるが、他人のために物品の販売または買入をなすを業とするものであることにかんがみれば、問屋の債権者は問屋が委託の実行としてした売買により取得した権利についてまでも自己の債権の一般的担保として期待すべきではないといわなければならない。されば、問屋が前記権利を取得した後これを委託者に移転しない間に破産した場合においては、委託者は右権利につき取戻権を行使しうるものと解するのが相当である。しかるところ、原審の確定するところによれば、上告人は昭和三四年一〇月二一日島根証券株式会社に本件株式の買入委託をなしその代金として三一万円を預託し、島根証券は、右委託に基づき同年一二月一五日訴外伊藤銀証券株式会社から本件株式を買い入れこれを保管中、同三六年二月一七日破産宣告を受けるにいたつたというのであり、右の事実によれば、委託者たる上告人は、被上告人に対し、本件株式につき取戻権を行使しうると解するのが相当である。よつて、右と判断を異にし、原判示の理由のもとに上告人は本件株式につき取戻権を行使しえないとした原審の判断、および右の前提に立ち上告人主張の代償請求を排斥した原審の判断は違法であり、原判決はこの点において破棄を免れない。そして、上告人主張の代償請求の当否を判断するためには、なお審理をする必要があるから、右の点について審理をさせるため、本件を原審に差し戻すのを相当と認める。
よつて、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(岩田誠 長部謹吾 松田二郎 大隅健一郎 入江俊郎は海外出張のため署名押印できない。)